今回のエントリーでは、ボードゲームプレイヤーを層別に分解し、市場構造の問題点、その対策について論じてみたい。相も変わらずデータはほとんど存在しないため、肌感覚や仮説に基づいた分析であることはご承知おきいただきたい。
では早速、ボードゲームプレイヤーを層別に分解してみよう。私の肌感覚で、ざっくりと以下の4つに分解をしてみた。
1. ヘビープレイヤー
現在のボードゲーム市場の中心にあるグループ。市場の8割は彼らによって賄われているだろう(パレート8:2の法則)。その他ホビー市場におけるヘビーユーザーと比較して、人を巻き込むことに熱心である。ゲームマーケットの来場者数から勘案するに、多くて約2,000人がここに属していると考える。
定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・「趣味は?」と聞かれれば一番にボードゲームがくる(投資額が大きい)
・ボードゲーム専用の棚、置き場があり、一部屋の占有率が25%以上である
・オープンなボードゲーム会を主催している
・ボードゲームに関わることを仕事にしている
2. ミドルプレイヤー
趣味は複数あるが、そのうちの一つがボードゲーム、と答えるグループ。ボードゲームは友人と遊ぶためのツールであり、なおかつ自らの好奇心を満たしてくれるものでもある。市場への貢献度は全体の2割であり、一方で人数としては約8,000人と推測している(GM参加者数からの推計)。
定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・自宅ボードゲーム会を主催している
・オープンなボードゲーム会に参加している
・ボードゲームに関する情報は一通り抑える
・気になったボードゲームを時々購入するが、保管場所に困るほどではない
・ゲームマーケットに参加
3. ライトプレイヤー
ボードゲームをプレイしたら楽しいと感じたグループ。ただし、更に自分で他のゲームについて調べよう、他人に勧めよう、自分でも購入しようとはあまり思わない。なぜなら、ボードゲームは多人数でワイワイ遊ぶものであり、買っても遊ぶ機会があまりない。「システムの面白さ<コミュニケーションツールとしての面白さ」を重視しているため、友人が持っていれば特に買う必要性を感じていない。ミドルユーザー以上の友人層に幅が広がるため、上位グループが一人あたり10人巻き込んでいると家庭すれば、約10万人がこの層にあたるだろう
定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・友人の自宅ボードゲーム会に時々参加する
・ボードゲームは人生ゲームやUNOだけでないことを知っている
・楽しいが、自分で購入しようとはあまり思わない(友人の家で時々プレイすれば十分)
4. ノンプレイヤー
「ボドゲ、なにそれおいしいの?」「人生ゲームのこと?」というグループ。そもそもボードゲームという存在を認知していないため、調べることもない。現状、認知させる手段に乏しい(市場として小さい)故に、非常に多くの人がここに当てはまるだろう。
定義:上述の条件のいずれにも当てはまらない。
【層別に見た問題点とその解決策】
この構造は、エントランスが狭く、一部のハマる人によって市場が形成される、※ホビー市場の典型的な形であると思われる。具体的な市場規模としては、2011年の矢野経済研究所のデータが参考になる。
http://www.yano.co.jp/press/pdf/1002.pdf
※URLにもあるように、一般的にはオタク市場と呼ばれるが、私はこの言葉の与えるネガティブイメージが大きい気がして、あまり使わないようにしている。
上記サイトにリストアップされている物と、ボドゲ市場を比較し、層別も併せて考えると、大きく分けて2つの課題が存在すると考える。
1. 裾野を広げるのが難しく、ノンプレイヤー⇒ライトプレイヤーにレベルアップさせにくい
例えば、プラモデルやフィギュアは、コンテンツとの連動性が高い。ガンダム好きな人は、ガンプラのことを自然と知るし、試してみるかもしれない。また、ワンピース好きな人がそのフィギュアを集め始めることも流れとしては想像できる。
つまり、「既に人が存在する分野からお客さんを持ってこられるか」というのは、市場を発達させるにあたってとても重要な要素だ。
現状、ノンプレイヤーがライトプレイヤーになるために必要な要素は、「周囲にミドルまたはヘビープレイヤーがいるかどうか」という点が大きい。彼らによって布教されるかどうか。すなわち、遊び手依存型なのだ。
私はビジネスとしてこの市場をとらえるなら、作り手側が主体となってマーケットを広げなければドイツのようにはならないと思っている。
このブログで繰り返し主張していることで、難しいのは重々承知だが、市場を広げるなら「コラボ、コラボ、とにかくコラボ」だ。作り手は、日本で本気で売りたい、食っていきたいなら、制作物は何とコラボできるか真剣に考えるべきだろう(当然、私も含めて)。幸い日本はコンテンツの宝庫である。
コラボするにあたって必要な要素は「親和性」「相手にとってのメリット」、そして「人脈」だ。特に人脈が重要で、業界内⇒外への広がりを持つ、他の趣味、領域と掛け合わせる、などが必要と感じている。
2. ライトプレイヤーがお金を使わない構造になっている
多くの市場において、ライト層向けの商品が基本として存在している。そこから、ミドル向け、ヘビー向けに機能を付け、ブランド化していき、価格を上げる。
つまりライト層には大量生産でコストを下げて一般化された製品を提供し、ミドル・ヘビー層に対して多品種小ロット生産で高価格・高利益の製品ラインを提供するということだ。
しかしながら、ボードゲーム市場はミドル層、ヘビー層しかお金を使わない。なぜライト層はお金を使わないのだろうか?
それは「真の意味でライト層向けの製品が少ない」からだ。もちろん、製品そのもののスペックはライト層に耐えうるゲームはいくらでも存在する。しかし、ミドル層やヘビー層は「ボードゲーム会や、仲間との遊びの場でボードゲームを遊ぶ」という目的(理由)のためにボードゲームを購入している一方で、ライト層は「自分で主催してまでやる必要性を感じない」「友人に会に呼ばれればそれで十分だ」と思っている。つまり、彼らにはボードゲームを自分で購入する理由がないのだ。ボードゲームそのものは面白いと思っているのにもかかわらず。
では、真の意味でのライト層向けとは何か。それは彼らに対してボードゲームを購入する理由を作ってあげた上で、提供することだ。具体的には、「友人を呼んでボードゲームで一緒に遊ぶ」というハードルの高いシーン以外で、※ボードゲームが日常で果たせる役割、メリットを明確に提示することだと私は思う。
これをしていかなければ、ボードゲーム市場はミドル、ヘビープレイヤーのためのホビー市場という枠組みからは出られないし、規模としても現在からさほど大きく増えないだろう。
※例えば、醤油のキッコーマンがアメリカで成功した理由の一つは、肉を食べる手段として「テリヤキ」レシピを普及したからだ。「醤油=日本料理」というアメリカ人の思考を、「醤油=肉を食べる時の調味料」として、身近な価値観に落とし込んだ。これにより、アメリカにおいて醤油はもはやニッチ市場ではなくなった。
以上は今増えているであろうライト層に、(誤解を恐れず言えば)もっと「お金を使ってもらおう!」という戦略である。
この課題に対する打ち手としては、もう一つ方向性がある。それは、いかにライトプレイヤー⇒ミドルプレイヤーにレベルアップさせるか、というものだ。この確率を上げれば、この市場にお金を使ってくれるようになる。
ライトとミドルの決定的な違いは、「主体性があるか」という個人の性質による部分と、「新しい体験を求めているか」という点にある。前者に対するアプローチは難しいが、後者には「ボードゲームが提供してくれる価値」は「友人と遊ぶツール」というだけでなく、「新しい世界を知ってワクワクできる」というものがあると認知してもらえれば、レベルアップに貢献するかもしれない。
つまり、ボードゲームを「新しい遊びの体験」という位置づけにすることだ。
無論、私が仲間と進めているボードゲームプロジェクトは前者を目指している。
【ポイントの整理(図式化)】
・市場構造から見える課題は、認知していないノンプレイヤーが多すぎることと、ライトプレイヤーがお金を使わないことである。
ノンプレイヤー<<@認知の壁<<ライトプレイヤー<
@ 認知の壁を破るためには、「コラボ、コラボ、とにかくコラボ」! 既に人がいる分野から人を連れてくる
A 購入の壁を破るには、ライトプレイヤーがボードゲームを購入する理由を作る。主体性が必要なく、日常のよくあるシーンの中でボードゲームがライトプレイヤーに提供する価値、役割を明確化する。
B 主体性の壁を破り、ライトプレイヤーをミドルプレイヤーにレベルアップさせたいなら、ボードゲームを「友人との遊び道具」から、「新しい遊びの体験」という位置づけにする必要がある。