2014年09月17日

ボードゲーム市場構造の課題点と対策について考えてみる

【ボードゲームプレイヤーを層別に分解する】

今回のエントリーでは、ボードゲームプレイヤーを層別に分解し、市場構造の問題点、その対策について論じてみたい。相も変わらずデータはほとんど存在しないため、肌感覚や仮説に基づいた分析であることはご承知おきいただきたい。

では早速、ボードゲームプレイヤーを層別に分解してみよう。私の肌感覚で、ざっくりと以下の4つに分解をしてみた。

1. ヘビープレイヤー

現在のボードゲーム市場の中心にあるグループ。市場の8割は彼らによって賄われているだろう(パレート8:2の法則)。その他ホビー市場におけるヘビーユーザーと比較して、人を巻き込むことに熱心である。ゲームマーケットの来場者数から勘案するに、多くて約2,000人がここに属していると考える。

定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・「趣味は?」と聞かれれば一番にボードゲームがくる(投資額が大きい)
・ボードゲーム専用の棚、置き場があり、一部屋の占有率が25%以上である
・オープンなボードゲーム会を主催している
・ボードゲームに関わることを仕事にしている

2. ミドルプレイヤー

趣味は複数あるが、そのうちの一つがボードゲーム、と答えるグループ。ボードゲームは友人と遊ぶためのツールであり、なおかつ自らの好奇心を満たしてくれるものでもある。市場への貢献度は全体の2割であり、一方で人数としては約8,000人と推測している(GM参加者数からの推計)。

定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・自宅ボードゲーム会を主催している
・オープンなボードゲーム会に参加している
・ボードゲームに関する情報は一通り抑える
・気になったボードゲームを時々購入するが、保管場所に困るほどではない
・ゲームマーケットに参加

3. ライトプレイヤー

ボードゲームをプレイしたら楽しいと感じたグループ。ただし、更に自分で他のゲームについて調べよう、他人に勧めよう、自分でも購入しようとはあまり思わない。なぜなら、ボードゲームは多人数でワイワイ遊ぶものであり、買っても遊ぶ機会があまりない。「システムの面白さ<コミュニケーションツールとしての面白さ」を重視しているため、友人が持っていれば特に買う必要性を感じていない。ミドルユーザー以上の友人層に幅が広がるため、上位グループが一人あたり10人巻き込んでいると家庭すれば、約10万人がこの層にあたるだろう

定義:以下の条件のいくつかに該当している。
・友人の自宅ボードゲーム会に時々参加する
・ボードゲームは人生ゲームやUNOだけでないことを知っている
・楽しいが、自分で購入しようとはあまり思わない(友人の家で時々プレイすれば十分)

4. ノンプレイヤー

「ボドゲ、なにそれおいしいの?」「人生ゲームのこと?」というグループ。そもそもボードゲームという存在を認知していないため、調べることもない。現状、認知させる手段に乏しい(市場として小さい)故に、非常に多くの人がここに当てはまるだろう。

定義:上述の条件のいずれにも当てはまらない。


【層別に見た問題点とその解決策】

この構造は、エントランスが狭く、一部のハマる人によって市場が形成される、※ホビー市場の典型的な形であると思われる。具体的な市場規模としては、2011年の矢野経済研究所のデータが参考になる。

http://www.yano.co.jp/press/pdf/1002.pdf

※URLにもあるように、一般的にはオタク市場と呼ばれるが、私はこの言葉の与えるネガティブイメージが大きい気がして、あまり使わないようにしている。

上記サイトにリストアップされている物と、ボドゲ市場を比較し、層別も併せて考えると、大きく分けて2つの課題が存在すると考える。

1. 裾野を広げるのが難しく、ノンプレイヤー⇒ライトプレイヤーにレベルアップさせにくい

例えば、プラモデルやフィギュアは、コンテンツとの連動性が高い。ガンダム好きな人は、ガンプラのことを自然と知るし、試してみるかもしれない。また、ワンピース好きな人がそのフィギュアを集め始めることも流れとしては想像できる。
つまり、「既に人が存在する分野からお客さんを持ってこられるか」というのは、市場を発達させるにあたってとても重要な要素だ。
現状、ノンプレイヤーがライトプレイヤーになるために必要な要素は、「周囲にミドルまたはヘビープレイヤーがいるかどうか」という点が大きい。彼らによって布教されるかどうか。すなわち、遊び手依存型なのだ。

私はビジネスとしてこの市場をとらえるなら、作り手側が主体となってマーケットを広げなければドイツのようにはならないと思っている。
このブログで繰り返し主張していることで、難しいのは重々承知だが、市場を広げるなら「コラボ、コラボ、とにかくコラボ」だ。作り手は、日本で本気で売りたい、食っていきたいなら、制作物は何とコラボできるか真剣に考えるべきだろう(当然、私も含めて)。幸い日本はコンテンツの宝庫である。
コラボするにあたって必要な要素は「親和性」「相手にとってのメリット」、そして「人脈」だ。特に人脈が重要で、業界内⇒外への広がりを持つ、他の趣味、領域と掛け合わせる、などが必要と感じている。

2. ライトプレイヤーがお金を使わない構造になっている

多くの市場において、ライト層向けの商品が基本として存在している。そこから、ミドル向け、ヘビー向けに機能を付け、ブランド化していき、価格を上げる。
つまりライト層には大量生産でコストを下げて一般化された製品を提供し、ミドル・ヘビー層に対して多品種小ロット生産で高価格・高利益の製品ラインを提供するということだ。

しかしながら、ボードゲーム市場はミドル層、ヘビー層しかお金を使わない。なぜライト層はお金を使わないのだろうか?
それは「真の意味でライト層向けの製品が少ない」からだ。もちろん、製品そのもののスペックはライト層に耐えうるゲームはいくらでも存在する。しかし、ミドル層やヘビー層は「ボードゲーム会や、仲間との遊びの場でボードゲームを遊ぶ」という目的(理由)のためにボードゲームを購入している一方で、ライト層は「自分で主催してまでやる必要性を感じない」「友人に会に呼ばれればそれで十分だ」と思っている。つまり、彼らにはボードゲームを自分で購入する理由がないのだ。ボードゲームそのものは面白いと思っているのにもかかわらず。

では、真の意味でのライト層向けとは何か。それは彼らに対してボードゲームを購入する理由を作ってあげた上で、提供することだ。具体的には、「友人を呼んでボードゲームで一緒に遊ぶ」というハードルの高いシーン以外で、※ボードゲームが日常で果たせる役割、メリットを明確に提示することだと私は思う。
これをしていかなければ、ボードゲーム市場はミドル、ヘビープレイヤーのためのホビー市場という枠組みからは出られないし、規模としても現在からさほど大きく増えないだろう。

※例えば、醤油のキッコーマンがアメリカで成功した理由の一つは、肉を食べる手段として「テリヤキ」レシピを普及したからだ。「醤油=日本料理」というアメリカ人の思考を、「醤油=肉を食べる時の調味料」として、身近な価値観に落とし込んだ。これにより、アメリカにおいて醤油はもはやニッチ市場ではなくなった。

以上は今増えているであろうライト層に、(誤解を恐れず言えば)もっと「お金を使ってもらおう!」という戦略である。

この課題に対する打ち手としては、もう一つ方向性がある。それは、いかにライトプレイヤー⇒ミドルプレイヤーにレベルアップさせるか、というものだ。この確率を上げれば、この市場にお金を使ってくれるようになる。
ライトとミドルの決定的な違いは、「主体性があるか」という個人の性質による部分と、「新しい体験を求めているか」という点にある。前者に対するアプローチは難しいが、後者には「ボードゲームが提供してくれる価値」は「友人と遊ぶツール」というだけでなく、「新しい世界を知ってワクワクできる」というものがあると認知してもらえれば、レベルアップに貢献するかもしれない。
つまり、ボードゲームを「新しい遊びの体験」という位置づけにすることだ。

無論、私が仲間と進めているボードゲームプロジェクトは前者を目指している。

【ポイントの整理(図式化)】

・市場構造から見える課題は、認知していないノンプレイヤーが多すぎることと、ライトプレイヤーがお金を使わないことである。

ノンプレイヤー<<@認知の壁<<ライトプレイヤー<
@ 認知の壁を破るためには、「コラボ、コラボ、とにかくコラボ」! 既に人がいる分野から人を連れてくる

A 購入の壁を破るには、ライトプレイヤーがボードゲームを購入する理由を作る。主体性が必要なく、日常のよくあるシーンの中でボードゲームがライトプレイヤーに提供する価値、役割を明確化する。

B 主体性の壁を破り、ライトプレイヤーをミドルプレイヤーにレベルアップさせたいなら、ボードゲームを「友人との遊び道具」から、「新しい遊びの体験」という位置づけにする必要がある。
posted by らりお at 17:54| Comment(11) | 市場分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月08日

女性にも楽しんでもらいやすいボドゲはどういうものか?

【ボードゲーム会にまだまだ女性が少ないのは?】
現在マーケティングにおいて、「女性の心をいかに掴むか」ということは多くの企業にとって課題である。
なぜなら、彼女たちは流行に敏感であり、家庭における購入決定者であるからだ。
しかしながら、ボードゲームに立ち返って考えてみると、私は色々なボドゲ会に行っているが、女性の割合はすこぶる少ない。ほとんどが1割以下(30〜40人いて2,3人)の印象だ。
その原因はなんだろうか? 2つの可能性に分けて考えてみよう。

1. そもそも女性はボードゲームが好きではない。

例えばプラモデルなどの趣味は、女性はそもそも好きでないということが当てはまりそうだ。
しかし、ボードゲームに関してはこの可能性は低そうだ。なぜなら、同僚の女性陣とボードゲーム会を自宅でするときには、ほとんどの人が盛り上がるし、楽しんでいる。
ゲーム会に来られる女性も、リピート率は高そうだった。

2. ボードゲーム会の雰囲気が男性寄りである。

これは大きいだろう。というよりは、主催者の影響が大きいように思う。
以前いったボドゲ会は、会社の同期で立ちあげたものらしく、最初から女性もいる環境から始まっていたらしい。そのボドゲ会の女性の割合は4割近かった。この事例から考えれば、主催者の方向性とその構成メンバー、つまりは「女性目線での参加のしやすさ」が影響すると思われる。
また、下記のサイトには男女の脳の差に関する科学的な検証結果が書かれている。

http://www.men-joy.jp/archives/110511

曰く、男性は小脳が発達しており、一つの分野について極めるのが得意だという。(例:一般的に将棋や囲碁のプロは男性の方が強い)
一方、女性は右脳と左脳を繋げることが得意で、様々なことを同時にこなす、マルチタスクが得意だそうだ。(例:複数の料理を要領よく同時に作る)
ここから考えると、現在の男性ボードゲームプレイヤーは、趣味の中でもウェイトの高いものとしてボードゲームを扱っている可能性が高く、結果的にフリーク・ガチな雰囲気が醸成されやすい。
一方、女性がココに求めるものは、「新しい体験に触れてみたいという好奇心」や、「新たなコミュニティづくり」が主体なのかもしれない。

【得意=楽しい?】

さて、それでは今後女性のボードゲームプレイヤー(購入してくれる人)を増やすためにはどうすればいいだろうか。上述では、「ボードゲームは女性にも楽しんでもらえる」と書いたが、新たにボードゲームをプレイする女性に「楽しんでもらいやすいボードゲーム」というのは、どのようなものなのだろうか。

それを考えるにあたって、まずは「ゲームにおける楽しい」を分解することから始めよう。
楽しいとはつまり、「夢中になること」とも言えるだろう。
いくつかの資料を元に、7つの要素に分解をしてみた。

「相手との関係性」
1. 競争:優越感を得られる (例:他人より良い装備、ランキング高い)

2. 協力:達成感、貢献感、評価を得られる (例:連携して強い敵を撃破、フィードバック機能)

「自己完結するもの」
3. 収集:満足感を得られる (例:モンスター図鑑を埋める)

4. 学習:自己成長を感じられる (例:繰り返しプレイしてようやくクリアできた)

5. 表現:アイデンティティを感じられる (例:アバター機能)(他面的には相手との関わりも関係)

6. 発見:知的好奇心を満たす (例:豆知識Tips)

7. 没入:その世界に入り込める感覚を得られる (例:ストーリー、世界観)

さて、その上で次に「得意なことは楽しいか?」について考えてみる。
なぜなら、女性と男性では既に挙げたサイト(http://www.men-joy.jp/archives/110511)にあるように、得意なことが少し異なるためだ。仮に「得意なこと=楽しい」のであれば、女性が得意なことを満たせるゲームが女性に受け入れられやすいゲームということになる。

これについては、得意・不得意の軸と楽しい・楽しくないの2つの軸でマトリックスを使って整理してみる。

得意・楽しいマトリックス.png

結局のところ、プレイヤーがゲームに何を求めているかで答えは変わってくる。
「相手との関わり」を重視する人にとっては、得意であることは楽しいことと相関がありそうだ。
一方、「自己完結」で楽しめる人にとっては、得意であることは楽しいことと相関性が低いだろう。

では、女性の場合どちらが多いのか。
この答えになるかどうかは分からないが、既存ゲーム市場の成功事例から引っ張るのが良さそうだ。

日本ゲーム市場の歴史の中で女性ユーザーをゲームに取り込んだことで成功したゲームはいくつかあるが、その中でも顕著なのは「どうぶつの森シリーズ」ではないだろうか。
2001年以降シリーズ累計1,800万本以上売れているこのシリーズは、特に携帯ゲーム機になった「おいでよ どうぶつの森」「とびだせ どうぶつの森」で人気が加速した。その開発陣の大半は女性であり、ターゲティングも女性を意識しているのは明白である。

この「どうぶつの森」シリーズにおいて、強いゲーム要素はなんだろうかと考えてみると、「自己完結」要素が圧倒的に強いことが分かる(もちろん、協力・競争要素もあるが)。

収集:色々な家具などを集める
学習:繰り返しプレイで育っていく
表現:自分だけの村作り(ここに他者との関わりも入る)
没入:かわいい世界観、主人公は自分、日常との連動イベント

つまり、多くの女性がゲームに求めていることは競争、協力要素より、上述のようなものなのではないか。

【ボードゲームの目的にジレンマ】

しかしながら、よくよく考えてみると、ボードゲームの最終的な目的は「勝つこと」あるいは「負けないこと」であるものが圧倒的に多い。その制約の中でどのようなゲームにすれば女性に楽しんでもらいやすいだろうか。
これには2つの方向性があるだろう(この2つは相反するわけではない)。

1. 女性が得意なマルチタスク、もしくは言語・感情分野に根ざしたゲームを作る

つまり、「得意だから楽しい系」の女性を取り込む戦略だ。マルチタスクに加えて、女性のほうが左脳が発達している傾向にあると言われている。感情と言論の結びつけも上手いため、ブラフ系ゲームは女性のほうが強いだろう。「人狼ゲーム」が女性にもウケているのは、この「女性の強み」と「人狼の世界観への没入感」にあると思われる(状況が容易に想像しやすく、緊迫感もある。リアル脱出ゲームも同様に世界観をとても大切にしている。)
もしくはマルチタスクを具体化するなら、1度の複数のことを考えて実行しなければならないゲームだ。そしてその実行には制限時間、もしくは早いもの勝ちという制限があったほうが良い。じっくり考えると男性の方に優位性がありそうだ。

2. 勝ち負け以外の楽しい要素を盛り込んだゲームを作る

当然ゲームなので「勝ち負け」要素はあるのだが、その過程において、女性に受け入れられやすい要素をちりばめることだ。
まずもっとも重要なのが、没入感。つまりパッケージなどから感じられる「かわいい」「面白そう」という空気感、そして実際にそれがゲームシステムとマッチしているかどうか。そのテーマは「戦う」よりも、「集める」「作る」「育てる」「購入する」といったほうが受け入れやすいだろう。このあたりのテーマ性の男女差については、下記のサイトの本能マップが参考になる。

http://yuofc2.blog72.fc2.com/blog-entry-238.html

女性にコミュニケーションゲームが受け入れられやすいのは、言語分野の得意性もあるが、それ以上に勝ち負け要素の薄いゲームが多いからだ。
重要なのは「没入できるデザインとテーマ性」、そしてゲームの過程における「自己完結」できる要素「収集」「成長」「表現」「発見」を散りばめることだと考える(全てある必要は無い)。

【ポイントの整理】

・ボードゲーム市場における女性プレイヤーはまだまだ少ない(全体の1割)

・一方で女性を取り込むことは、市場全体の活性化につながる(流行の発信源であり、家庭における購入決定者であることが多いため)

・ゲームにおける楽しさは大きく分けて7つの要素に分けられる。
「相手との関わり」に関係する「競争」「協力」
「自己完結」で充足できる「収集」「表現」「学習」「発見」「没入」

・「得意」であることは、必ずしも「楽しい」につながるわけではなく、その人が求めていることによって異なる。

・どうぶつの森シリーズが女性に受け入れられ大ヒットしたのは、「自己完結」側の要素が大きい。

・ボードゲームは「勝ち負け」が最終ゴールであるものの、「没入感」を筆頭に、「自己完結」側の要素を中心に添えることで、女性にも楽しんでもらえるものになるだろう。
posted by らりお at 17:18| Comment(0) | 市場分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月03日

ボードゲームの作り手はどうすれば増えそうか?

【作り手の視点からボードゲーム業界を俯瞰する】

これまで私のブログでは、主に遊び手の視点から市場分析をしてきた。
しかし、今実際にボードゲーム制作プロジェクトを立ちあげ、色々と進み始めたところで、少し疑問に思ったことがある。

「そもそも今の日本のボドゲ業界には、どのくらい制作サークルがあるんだ?」
「それはコミケと比較したらどうなんだろうか?」
「もし非常に少ないなら何が原因か?そしてどうすれば改善できるのだろうか?」


2014年ゲームマーケット春の出展サークル数は約300である(企業ブース除く)。
来場者数が6,500人なので、1サークルあたりの来場者は約21人である。

対して、2014年夏コミの出展サークル数が約3.5万。
来場者が55万人なので、1サークルあたりの来場者は約16人となっている。
(1サークルが来場者を16人集客しているという数字の見方)

なるほど、こうしてみるとゲームマーケットの作り手が特に少ないということはなさそうだ。
一方で、コミケと相対的に見れば、
「作り手が増えれば買い手も増える」⇐⇛「買い手が増えれば作り手も増える」の相互作用は働いていそうである。

【ボドゲと同人誌の間にある作り手のギャップ】

上記の関係性があるのであれば、「作り手を増やす」というアプローチは市場の活性化につながることになる。では、どうすればボードゲーム製作者、またはサークルを増やすことができるだろうか。
それを考えるにあたって、ボードゲーム制作と同人誌制作の間にある大きな壁について触れておきたい。

ボードゲーム制作には次の2点において、圧倒的に同人誌制作よりハードルが高いと言える。

1. リスクとリターンのバランスが悪い。

同人誌だと小ロットの印刷で100部制作しても約1万円だ。500円で販売すれば20部で損益分岐点を迎えることになるため、回収の見込みを立てやすい。
一方ボードゲームは化粧箱、説明書、カードetcにそれぞれ版代がかかり、原価が高い。需用も読みづらく、100個製作時の損益分岐点は80個以上の販売になるのが大半だろう。

単に原価の話だけではなく、その後の展望に関するインセンティブも異なる。
同人誌であれば漫画家、web販売など展開が望める(可能性は低い)ため、将来的な目標に向かって頑張りやすい。一方、ボードゲームは現在のところ、ボードゲームデザイナーという職種はなく、市場流通も限られているため、インセンティブに弱いところがある。

つまり、短期的・長期的の両面において、リスクとリターンのバランスが悪い。
ボードゲーム制作におけるリターンは、「他の人に自分のゲームをプレイされたい」という感情要素が大半を占めるだろう。それはとても大事なことであるし、私もそのために制作Pを立ちあげているが、一方で「夢を見られる」部分があってもいいと思う。


2. ゲーム制作そのものが難しい

同人誌は大半が元ネタがあり、「絵を描く」、「話を作る」技量があれば作品にできる。
一方、ボードゲームにおいては、「絵を描く」、「説明書を分かりやすく書く」、「ゲームシステムを作る」、「入念なテストプレイを繰り返す」など開発までのステップが多い。
一人で全てをハンドリングするのはおそらく大変で、仲間との協力が主になってくる。
そうすると、「まとめあげる力」も必要で、ROIまで考えるなら「コスト管理能力」も必要だ。
当然、仲間を探すネットワークも必要になるだろう。

【どのような施策が作り手を増やすのに有効か?】

基本的には上述の1と2を解決する施策を打てば、作り手にとって魅力的な市場になる。
当然、一番の施策は游び手を増やして市場を大きくすることだが、今回はそれを抜きにして、いくつか施策をピックアップする。

1. リスクとリターンのバランス改善のための施策

・短期的な原価低減の手法は、大量生産と流通確保が最大の課題。そのためには結局遊び手が増えなければならないため、根本的な施策はない。

・「夢」というインセンティブを与える施策としては、「日本国産ボードゲーム大賞」の創設だろう。その際は創設団体が流通の責任も持ち普及させるなど、具体的な特典が必要だ。賞は認知されなければ意味が無いし、その受賞は製品にとって市場的価値を与えなければならない。

2. ゲーム制作の支援策

・ドロッセルマイヤーズさんがやっておられるようなゲーム制作ワークショップ、セミナーの開催。

・誰かと一緒に何かを作りたい人々をつなぐネットワーキングサービスの立ちあげ。例えばキャンプファイヤーはプロジェクトの実行者と出資者という関係だが、このサービスでは互いの能力を活かして協業⇛全員が出資者となり、出資分の利益分配。

・テストプレイ会の実施。既に有志の方々で実施されているが、企業側の支援姿勢があれば良い。また、ある特定層のユーザーの意見を聞きたい(例:中高生)場合の、テストプレイマッチングもあれば面白い。


遊び手も作り手も、互いに互いを盛り上げながら、ボードゲーム市場全体を成長してほしいし、させていきたい。まずは私自身が、作り手の一歩を踏み出している所です。
posted by らりお at 00:09| Comment(0) | 市場分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする