さて、ゲームを制作するとき、どんな人でも、ある程度「こんなゲームにしたいなぁ」という理想を描くのではないでしょうか。それはシステムやコンセプトも当然あるのですが、もっと広く、「こんな風に遊ばれたいなぁ」とか、「何度も遊んでもらえるようなものにしたいなぁ」とか。
昨日、twitterでフォローさせていただいている「こっち屋のゆおさん」のつぶやきで、「リプレイ性の源泉は何か」というものを見つけました。
確かに、これまで「何度も遊んでもらいたいなぁ」とは思うものの、「じゃあ、そのためにどんな要素が必要か?」ということまで踏み込んでは考えませんでした。
この「もう一回やりたい!」というトリガーをひくことは、広く普及するゲームにとって不可欠な要素といえます。
例えば、究極のもう一回やりたいは「将棋」「囲碁」「麻雀」などですよね。これらはそれぞれが一つのジャンルとして確立され、プロ(1年にそればかりを何百回とやる人達)がいる世界です。
ボードゲームも、この「もう一回やりたい!」を重視することで、日本市場においてより存在感を高められるかもしれません(単にアブストラクトで考え所を深くしろ、というわけではありません)。
せっかくの機会ですので、自分なりの考えをブログにまとめてみようと思います(ゆおさんの方では既にいくつか結論を出されており、重複する部分も多いのですが、ご容赦ください)。
【3つの軸で「もう一回やりたい!」を分解してみる】
まず一つは、「誰にとって」もう一回やりたいのか。これは分けて考える必要があると思いました。
仮説ですが、ボードゲームに限らず「ゲーマー」と「ノンゲーマー」(この名称が良いのか不明ですが…)では「もう一回やりたい!」の勘所が異なる可能性は高いと思います
※ゲーマーやノンゲーマーと言ってもその中でも、更に細分化はできるのですが、今回は分かりやすさを重視してこの2つにざっくり分けてみました。
更にいつ「もう一回やりたい」と思うかによっても、その要素は異なるのではないかと考えました。
つまり、「ゲーム後すぐ」に「もう一回!」なのか、「しばらく経って」から何かの折に「そういえばあのゲームまたやりたいなぁ」なのか。これはどちらも、リピート性が高いと言えるのではないかと。
最後に「もう一回やりたい!」そのものについて、大きく分けて「悔しかった」からもう一回やりたいのか、「楽しかった」からもう一回やりたいのか。
この2つの感情に分かれるのではないかと仮説を立ててみました(悔しい、楽しいは完全に区別できるとは思いませんが、どちらが感情として強いか、という話で考えます)。
つまり、まとめると…
(ゲーマーorノンゲーマー)×(すぐにorあとで)×(悔しいor楽しい)
厳密に分ければ全8通りの「もう一回やりたい!」があるのではないでしょうか。
それぞれの要素を意識しながら、ゲーマーとノンゲーマーに分けて書きだしてみましょう。
【ゲーマーの「もう一回やりたい!」トリガーを引くために】
ここではゲーマーの持つ要件を以下のように定義してみます。
・遊びつくしたい
・極めたい(強くなりたい、うまくなりたい)
・システムを楽しみ、新たな発見・体験を求めている
思わずゲーマーが「もう一回やりたい!」と言ってしまうゲームは以下のような特性があるのではないでしょうか。
1. 「してやった」「してやられた」感がある
運の要素はあるのもの、確かに相手が一枚上手で、「してやられた」と感じさせるゲームは猛烈に悔しいし、逆に「してやった」時は最高に気持ちよく、いずれも「もう一回!」につながりやすそうです。
相手を作戦で上回った、作戦負けした、などが明確に分かるのは重要そうです。ここにランダマイザーが介入することで、毎回その作戦でいけばいいものでもない、という余地(詳しくは下記3)があるとなお良さそうです。
加えて、「どうしても試してみたい戦術があるが、実際うまくいくかは分からない!」という状況も、「もう一回やりたい!」のモチベーションになりえそうですね。
2. 感動体験がある
美味しいイタリアンに巡り合えば、1ヶ月後くらいにまた行きたくなります。
同様に、「これは新しい!」「これはすごい!」と思わず感じたゲームは、後になっても記憶に残っています。例えば、誰かのゲームレビューを読んだり、似たシステムのゲームを遊んだ時、「そういえば、あれ、またやりたいなぁ」と思い出されるものです。
ゲーマーズゲームの場合の感動体験は、システムの斬新性やゲームテーマとの調和性であったりすることが多いと思います。
3. 思考の余地が大きい
できることが多く、正解(これが最も勝ち近い1手)が見えにくい工夫がされている。
ゲーマーは底が見える、正解が見えるとリプレイ欲を失う傾向にありそうです。
「ああ、これはこういうゲームだね」と言われてしまえば、ゲームの寿命が縮まりそうです。
ただし、複雑化しすぎると、今度は思考放棄につながりやすくなるため、ここはバランスが求められそうです。今度はきっと「なんか色々できるけど、よく分からん」と言われます……。
4. 選択肢によって全く別のプレイ感になる
これは少しベクトルの違う「もう一回やりたい!」です。
人狼やテラミスティカのように役職やキャラクターによってプレイ感が異なる作品は、「もう一回」というより「これもやってみたい!」となり、ゲームとしての寿命が長くなる傾向にあります。一方、バランス取りが難しくなるため、全てをプレイした後に、1や2の要素が残されていないと、その先は続かないかもしれません。
逆に無限に近い組み合わせを実現できるのであれば……?
5. 「もう一回やりたい!」の気持ちが、「面倒くさい」を超えている
いくら、1〜4で「もう一回やりたい」という気持ちが醸成されても、それが「面倒くさい」のハードルを越えなければリプレイされません。
ボード―ゲームにおける面倒くささの源泉は、「プレイ時間の長さ」、「セットアップの煩雑さ」、新規メンバーを交えてやる場合は「インストの煩雑さ」など、多岐にわたります。
ゲーマーの場合、「面倒くさい」に対する耐性が高いことが多いですが、それでも1〜4の要素と5のバランスは制作において無視できない要素です。
こう見ると、おそらく、3か4だけを満たしているゲームでは充分じゃないでしょう。
1や2がかなり重要で、3と4がそのフレーバー、5は必要条件、という感じでしょうか。
当てはまるものを探していくと、すぐ頭に浮かんだのは世界的に人気を博している「ドミニオン」でした。
多分以下のような感じかと思います。
1. 自分の山札のランダマイザー機能により運要素もありながらも、明確に戦術に差が出てくることで、勝敗に影響を与えるため、「してやられた」「してやった」感を醸成している。
2. ゲームをしながらデッキビルドという全く新しいシステムによる感動体験がある。
3. 正解はない、もしくは分かりにくい。考える余地が深いものの、選択肢は多すぎないレベルになっている。
4. 初期セットによってゲーム展開、戦術が異なるため、「次はこれでやりたい」となりやすい。さらに組み合わせが非常に多いため、遊びつくせないボリュームになっている。
5. 全体的にセットアップが煩雑だが、1〜4による「もう一回!」の強さが、「面倒くさい」と思わせる気持ちを超えている。
【ノンゲーマーの「もう一回やりたい」のトリガーを引くために】
ライトゲームを作ろうとしている私にとって、こちらがより重要です。
ゲーマーとは異なる部分と、また同様の部分もありそうです。
書いてみると、ゲーマーとは重視しているものが違うことが見えてきました。
1. プレイ時間の短さ、セットアップの簡単さ、ゲーム分かりやすさ
ゲーマーと違い、ここへの耐性が低い(「あくまでゲームでしょ」という考えがある?)ため、ここのハードルがあがると急激にリピート性が落ちそうです。
個人的な感覚ですが、プレイ時間は30分まで、セットアップは将棋くらいまでかな、と考えています。分かりやすさについては、5分で説明できて、覚えることが7つ以内で、そのほとんどがプレイしながら理解できるもの、でしょうか。一度プレイして、大体わかったからもう一回!と、「面白さがどこにあるのかが分かりやすい」のも重要でしょう。
2. ドラマ性がある
システム的にすごいという感動よりも、ゲーム内で起こるドラマ(劇的な展開)のほうが、彼らの記憶に残りやすいのではないでしょうか。
分かりやすいのは百人一首の「坊主めくり」。このゲーム、システムとして運しかないわけですが、姫を連続で引きまくって最後に坊主で手放すという一連のドラマが面白さの源泉になっています(逆に展開次第では全く面白くないわけですが……)。次はどんな展開になるのかな、という期待は強い「もう一回やりたい!」のトリガーになりそうです。
それを作る方法として、会話をする機会を与えることが重要そうです。
なぜなら、彼らの目的はゲームそのものを楽しむというよりも、ゲームとその空気感を楽しむことにあると考えています。そのため、各プレイヤーが話す、茶々を入れる、アドバイスをするなど、話す機会を促進しているゲームは、ドラマが生まれやすくなるでしょう。
3. 大負け、大勝ちにならない
彼らにとって勝ち負けはさほど重要ではないものの、僅差での負けや勝ちはドキドキする体験になり得ます。逆に大差での負けや勝ちになりえるゲームは、「もう一回やりたい」を阻害する要因になりそうです。
単純に運要素を大きくして競技性を無くせ、というわけではありませんが、良いバランスがとれている必要はありそうです。入念なテストプレイによる調整が肝ですね……。
個人的には1と2の要素が特に重要と考えています。
具体例を挙げれば、やはり「カルカソンヌ」(草原無しルール)でしょうか。
つい先日、会社の同僚を家に呼び、ゲーム会を開催したところ、それから毎日のように「あの城つくるやつやりたい」と言われ続けています。名前は決して覚えてくれませんが(笑)、すごいゲームだなぁと改めて敬服です。
1. タイルを積み上げて、スタートタイルを置くだけ。30分でできて、やることはタイルを置いて、ミープルを置くか置かないか。やりながら教えられる簡単さ。
2. 大きく広げた城が、奇跡的に収束して完成したり…。育てに育てた城を相乗りされ、さらに乗っ取られたり…。あらゆるドラマ要素がちりばめられている。また、アドバイスをしながらできるため、会話も弾む。さらに、最終的にできるカルカソンヌの城下町は毎回違い、そこにもドラマ性が潜んでいる。
3. 得点を取るのが比較的簡単であるため、上位との点差がつきにくく、あと一歩で負けた悔しさを醸成している。
【まとめ】
結局のところ、リプレイ性が高いというのは、良いゲームの条件の一つですから、今回挙げたのは、良いゲームたる要素なのかもしれません。
いずれにせよ、誰にとっての「もう一回やりたい!」なのかは少し区別が必要かなぁと思いました。
私がゲーマーに遊んでほしいゲームを作るなら、「戦術レベルの深さ」×「システムの新しさ」を指標に使いたいです。
一方、広く色々な人に遊んでもらうゲームであれば、「ドラマ性を演出できているか」×「煩雑さのハードルは低いか」を指標に使います。これに加えて、ドイツゲームらしいジレンマ体験をうまく提供できれば、総合的に私が作りたい良いゲームかなぁと。
再認識したのは、やはり「誰に」っていうのはとても大事な考え方で、ノンゲーマーに対するキーワードとして出てきたのは「ドラマ性」。これがかなり自分のやりたいことに近いかなぁという気がしたのでした。
Special thanks こっち屋 ゆおさん
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