2014年07月29日

5年後の日本ボードゲーム市場がどうなっていたら嬉しいか

今回の記事では、表題通り、将来のありたい姿。すなわち目標について書いてみたい。ここについては、各自色々と考え方があるはずなので、意見をいただけると幸いである。

【各々の肌感覚ともう一つの規模分析の話】

その前に、前々回の市場規模の反響については、実に興味深いものがあった。
私は3〜5億円という推測を出したが、それに対して「少なすぎる」「大体合っている」「多すぎる」という様々な見解が出たのだ(Twitter上を含む)。
私は出るとすればもっと大きいだろうという反論ばかりだと思っていたので、意外だった。個人の肌感覚は結構違うものだ。もし、もっと多い、もっと少ないという根拠となる考え方、あるいは資料があれば、共有いただけると幸いである。

ちなみに、他のアプローチからもう一つだけ市場規模分析をしておく。
前々回、同人誌市場が700億円に達したという話を紹介したが、同じフリーク向けの市場として捉え、コミックマーケットとゲームマーケットの来場者数比較から割り出すというアプローチも考えられる。当然、単価が違うので一概には比較できないのだが、そこは無視してやってみる。
2013年コミックマーケット84(夏)の来場者は59万人である。
一方、ゲームマーケットは大阪と東京合わせて9,000人である。
この単純比較から、700億円×9,000÷590,000=約10.6億円前後と見ることもできる。

この計算だと、日本玩具協会の資料におけるパズルを含むゲームカテゴリー132億円のうちの約8%を占めるということになるが、ジクソーパズルやトランプ、オセロ、人生ゲームなどメジャー商品と相対したときに8%もプレゼンスを保てるだろうか?
この点に私は懐疑的であり、各自の肌感覚が出る部分なのかと思う。

【メインテーマ】

さて、それでは本題に移りたい。
このテーマの中で、「嬉しいか」と表現しているが、これは「あなた」にとってでもいいし、自分なりの設定でよいだろう。私の場合、「ボードゲーム市場に関わる全員」にとって嬉しいか、という視点で書きたい。
もし全員にとってうれしい状況を作れれば、その業界は盛り上がり、参入が増え競争が生まれることで成長していくからである。

切り口は5W1Hだが、ストーリーで妄想してみたい。

【5年後の日本ボードゲーム市場を妄想する】

今から5年後の2019年、日本では家庭で遊ぶゲームとして、UNOやトランプ、人生ゲーム以外の新たな選択肢が登場し、浸透していた。その名もボードゲーム「ジレンマ(仮)」である。
このゲームは数年前創業したベンチャー企業Double Bind(仮)が、ゲームアイデアを公募、製品化、プロモーションを手掛けて成功したものである。
「ジレンマ(仮)」は実に100万部の売上を達成した。これが火付け役となり、人々はジレンマ、戦略を感じられる「体験」に価値を見出し、その後様々なライトボードゲームが普及するようになっている。

ライトボードゲームのプレイシーンとして見受けられるのは、家庭(親、兄弟、友人)、学校(休み時間、合宿先など)と若年層がメインターゲットとなる一方で、病院、ホテルなどの時間をもてあましがちな場所では中高年層にも楽しまれている。また、月に1度、Double Bind(仮)が各地で主催するゲーム会には多くの参加者が集まっている。そこでは飲食を含む企業が協賛しており、新作ボードゲーム以外の製品プロモーションの場として利用されている。

一方、これまで主流であったフリークボードゲームの市場に関しても、プレイ人数は右肩上がりである。「ジレンマ(仮)」の成功は、ボードゲームというジャンルを人々に認知させ、それによりフリークなゲームに興味を持つ人が増加した。

フリークボードゲームのプレイシーンとして、変わらず個人主催のゲーム会は存在している。しかしながら参加者が増加の一途をたどるあまり、個人主催では受け入れきれないという事態が起きていた。そこでDouble Bind(仮)はボードゲームカフェ、プレイスペースも運営し、プレイ環境を整備している。特にいくつかの競技性の高いボードゲームは大会の存在も奏功して、定番フリークゲームとして浸透しつつある。麻雀荘ではなく、より健全なプレイスペースで遊ぶ人が徐々に増えつつあるのだ。

このDouble Bind(仮)の一連の動向を見て、同様の新規ベンチャー、既存のボードゲームメーカーも、新たな国産ボードゲーム制作、普及に挑戦するようになっている。これが競争を生み、各企業の戦略の明確化、コスト低減への取り組み、品質の改善、より面白いゲームの開発につながっている。

その結果、ボードゲームデザイナーという職業が成り立つようになった。これまで同人で自己負担の元で行われていた制作活動が、よりリスクが低く、リターンが見込めるようになったのだ。数々の公募(コンペ)、持ち込みが行われ、日本の有名ボードゲームデザイナーが台頭してきた。日本国産ボードゲーム大賞が毎年決まり、そこで受賞した作品を筆頭に、世界でも販売される国産ボードゲームが増えるようになってきた。

輸入ゲームはというと、相変わらずフリークゲーマーを中心に人気である。プレイヤーや関連企業が増えたことで、日本語化のスピード、精度も上がり、より早く快適なプレイを楽しめるようになってきた。

プレイヤーが増えたことで、メーカーは大量生産が可能になり、規模の経済効果からボードゲームの購入コストは下がるようになった。これらの商品はカンボジア、ラオス、ベトナムなどの東南アジア諸国で製造されることで、各企業は更なるコスト低減に努めている。数年後には、ボードゲームは先進国の娯楽としてのみならず、新興国における娯楽の一つとして普及するだろう。すでに現地で普及活動を進めている企業も存在している。そしてその地域においては、日本が先駆者になり得るのだ。

流通に関して見てみると、「ジレンマ(仮)」を中心としたライトボードゲームは、電機屋、ゲームショップ、一般玩具コーナーなど、幅広い流通を通して販売されている。
一方、フリークゲームに関しては引き続きネットショップが中心となっているが、プレイスペースやゲーム会などのイベントでの購入機会も多くなっている。

これらの結果として、2019年現在の日本ボードゲーム市場は100億円の規模となっており、成長率は非常に有望である。また、関連ビジネスを合わせればより大きな経済効果を見込める。ボードゲームは今、日本の新たなエンターテイメント産業として、盛り上がりを見せているのである。

【ポイントの整理】
1. 国産のボードゲームタイトルの1つが家庭に浸透し、そこから様々なライトボードゲームの認知が広まる

2. 家庭、学校などの日常の様々なシーンで、遊び、コミュニケーション、新たな体験の機会として、ボードゲームがプレイされている

3. ボードゲームの販路が広がることで、よりボードゲームを購入する機会が増える

4. フリークゲームのプレイヤーも増え、プレイスペースビジネスが成立するようになる

5. プレイ人口増加による大量生産が可能になり、購入コストが下がる

6. 複数の企業が参入し、国産ボードゲームの開発競争が始まる。その結果、ボードゲームデザイナーという職種がビジネスとして成立するようになる

7. 国産ボードゲーム賞が設けられ、世界でも通用する作品が次々と誕生し、世界市場に販路を拡大しつつある。特に未だボードゲームがほとんど普及していない新興国にも挑戦している

【終わりに】
実現可能性は十分あるだろうというラインを意識しながら、割と思いつくままに書いてみた。もちろん、細かい点に関してはHowの視点を書いていないため、曖昧に見えると思う。その辺りはある程度構想はあるが、今後また考えながら書いていきたい。

皆さんは、数年後、この市場がどのようになっていたら嬉しいだろうか。
ここはこういうほうがいい、あの部分がこうだと嬉しくない、この視点が抜けているなど、ご意見あれば、ぜひお寄せいただけると幸いである。
posted by らりお at 14:25| Comment(3) | 市場分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
非常に面白くて明るいストーリ/ビジョンでいいですね。他に考えられるシナリオもありますが、仮説検証には相応しいと思います。

全文を読み、「ボードゲーム」と言う製品の特徴を「電気品」や「自動車」などのような製品の特徴と同じく考えているところが気になります。特に「日本」と「海外」をあらゆるの場面(製品開発、製造、販売など)の区別が強く意識されていることを感じております。個人的にはもっとグローバルでオープンな思考を持ってもいいかと思います。まぁ、あくまでもご参考までに…

例えば、国産のゲームに関しては「…世界でも通用する作品が次々と誕生し…」と書いておりますが、この文言がは「本来、国産のボードゲームは世界に通用しないもの」、更に抽象化すると「本来、A地域の製品はB地域の市場に通用しない」という考え方を表しているように感じます。確かにそのような特徴を持っている製品も世の中にいっぱいありますが、ボードゲームと言う製品はこのパターンに当てはまるでしょうか?ドイツでドイツ産のゲームがいっぱい売れていますが、ドイツ産ではないゲームもいっぱい売れています。「ドイツ産だから」売れているゲームがないと思います(私見)。つまり、「ジレンマ」が日本で100万部売れるようになれば、海外にもそれなり(もしくはそれ以上)に同時に売れるはずです。キーは「産地」ではなく、やはり「ゲームの質」(品質ではありません)と「言語」ではないでしょうか?

現在のストーリだと、100億円市場の創造を実現するには国産のヒット・ライトゲームの創出が重要なポイントになっております。上記を踏まえ、既にある人気の海外ゲームの日本語化とそのマーケティング・販売に取り組むストーリもあります。あえてスタート時点で国産のゲームにこだわる必要があるのでしょうか?

大量生産のコストベネフィットに関しても、ボードゲームはそもそも大量生産向け製品でしょうか?実は多品種少量向けではないでしょうか?どちにしても、現在はスタートから多品種少量の廉価地生産が可能な時代(例:クラウドソーシングの多くのボードゲーム)になっておりますので、最初から正しく取り組めば後からのコストベネフィットが思うほど大きくないかもしれません。

以上、簡単な感触です。個人的に何があれば喜ぶかと言うと、「国産のゲームがいっぱいできたら」とかではありません。自分は人を巻き込むエバンジェリスト・タイプなので、「プレイヤーが増えれば」と言うことでもありません――今でも探せばあまり苦労せずに興味がある人を見つけます、ライトでもヘビーでも。ただ、私を含めて彼ら彼女らに「遊ぶ時間」と「遊ぶ場所」があって欲しいです。
Posted by ヴラダ at 2014年07月30日 12:01
Vladさん
引き続き、貴重なご意見ありがとうございます。
ご意見に沿って、私なりの考えを述べさせていただければ幸いです。

1. 「世界でも通用する」という表現に関する私の世界と日本の意識について
私はボードゲームに関してはドがつく初心者です。そんな私が言うのは非常におこがましいことを承知で言えば、日本と海外(特にユーロ、アメリカ)を比較した場合、ボードゲームの質、内容、量において日本は後塵を拝していると考えています。
これは、ゲームデザイナーが育つ環境があるかどうか、ボードゲームという市場の大きさはどうか、などに拠るところが非常に大きいでしょう。現に、日本における作品で海外においてもプレイされている、流通しているものは非常に少ないと思います。

だからこそ、「世界でも通用する」という表現をしました。これはゲームの質だけではなく、マーケティングの問題もあると思います。おそらく、日本の同人ゲームであっても、質的には大ヒットになり得るのに、それを世界へ持っていこうとする企業体がないために、埋もれてしまっている状況は多数あると推測しております。だからこそ、まずこの市場が魅力あるものにならなければならないと思っています。

私は「ゲームとしての面白さ」はおそらく万国共通、というより人間共通のものだと思います(多少好き嫌いはあるかもしれない)。もちろんテーマなどのウケがいいか、などは当然社会的文化的影響を受けるでしょう。この部分の根っこの考え方はVladさんと変わらないと思っております。

2. 国産ゲームにこだわるのはなぜか
人狼ゲームがにわかにブームですが、これは版権フリーなのでどの会社でも制作できるし、プライスを決める決定権が日本サイドにあります。色々と自由の効きやすかったのは、ブームの一因(メディアが取り扱いやすかったことを含め)だと思います。

一方で、ほとんどの輸入ゲームについてバリューチェンの一部は海外市場で為されるわけです。たとえば日本において10,000円で販売されている輸入ゲームなら3,000〜5,000円は、一連のバリューチェンの中で海外企業の利益になるでしょう。
つまり、輸入をメインにしていると売上に対して国内市場には約半分の経済効果しか見込めないことになります。それだけ日本市場におけるステークホルダーの利益確保の機会は減ります。
これは国内企業が海外で生産して逆輸入するのとは、大きく構造が異なります。
生産量、価格政策、版権、デザインなどにおいて、自国でコントロールできないと大衆化するのは非常に難しいと考えます。それは次の理由とも関連しています。

もう一つの理由として、島国の民である日本人は国産が大好きです。
世界的に成功している外資企業であっても、日本マーケットでは苦戦する大きな理由は、適切なローカライズができないからです。その適切さとは、あたかも日本企業、日本製品のように認知されることです。
製品に外国の空気を感じると、Not for meになりやすい性質を日本人は持っている気がします。だからアナログ、デジタル含め、洋ゲーは一般家庭への普及を狙う場合ハードルがむしろ高いと考えているわけです。(とはいえ、徐々にその壁が低くなっている気はします)

3. 大量生産?多品種少量生産?
コストベネフィットについてはおっしゃる通りですね。当然、多品種少量生産は新たな体験を楽しむボードゲームという領域において、非常に重要な視点だと思います。
一方で、ある程度の市場規模という観点から考えれば、数多くのゲームが一般家庭に普及するということはないだろうとも思います。
それこそ、ドイツゲーム賞を受賞したものだけ購入する、など大量生産されるものは出てくるでしょう。一番ボリュームを稼げるのはここだと思います。
フリーク向けゲームに関しては多品種少量生産にならざるをえないでしょうね。どちらの生産体制も確保しておくのは、重要なKey Success Factorの一つである気がします。

4. 遊ぶ時間、遊ぶ場所
とても重要な視点ですね。
ソーシャルゲームが成功した理由は、人々の隙間時間を狙ったことと、射幸心を煽りながら、目に見える競争体制を築いたことだと思います(言葉は悪いですが)。
ボードゲームを遊ぶシーン、ボードゲームの日常生活における役割を定義することはとても重要だと思います。
時間確保が一番の課題ですね、間違いなく……。
Posted by らりお at 2014年07月30日 15:08
日本ってサッカーでもなんでも欧米ばっか見て頓珍漢な妄想する人多すぎる
50位にもいかないのに自分の周りは見ずにドイツやイギリスやスペインばっかに気にする
東南アジアや中東とかを気にすればいいのに
ボードゲームもそうで遠くのいろいろな国から出品者が集まるドイツボードゲーム市場ばっか
気にしてるなんてアホもいいところ
日本はそんな段階ではない
Posted by at 2017年03月18日 18:27
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