2014年08月05日

ボードゲームが果たせる役割ってなんだろう

【前置き】
前々回の「5年後どうなっていたら嬉しいか」という記事において、私の考える未来は「売り上げ100万部を超える国産ボードゲームが登場し、人々にこのジャンルが浸透して、市場としての広がりを見せていく」と決めた。
つまり、キラータイトルの存在が必須になっているストーリーである。それでは、次に考えるべきは「どうすればキラータイトルを作れるか」という話だ。

だが、その前にやるべきことがある。そもそも、100万部売れる(2年以内にという時間制約も付けておこう)ものというのは、多くの人々の明確なニーズをとらえているはずである。何せ、計算上では日本の50世帯に1つはその商品を所有していることになる。
このニーズを考えるにあたって重要なのは、ボードゲームが「誰に」、「どんなシーンで使われて」、「どのような役割を果たすのか」という視点だ。
今回の記事では、この観点から考察をしてみたい。

【ボードゲームがもたらす価値】
まずはボードゲームそのものを物理的な面から分解をしてみる。
ボードゲーム=コンポーネント(デザイン×材質)×ルール

次にボードゲームをプレイするということを精神的な面から分解をしてみる。
ボードゲーム=考える×運に頼る×駆け引きする

この要素から、大きく分けて3つの価値をボードゲームは提供していると考える。

1. 所有欲を満たす

ボードゲーム、特に輸入品のデザインは美術的に素晴らしく、所有欲を刺激する。実際、多くのフリークプレイヤーにとって、当然プレイも重要だが同時に購入してルールを読んで満足する、ということも多い。これは、フィギュアなどと同様に、ホビーカテゴリーに当たるニーズである。

そもそも日本人は所有欲が非常に高い民族だと私は思う。それは筋肉マン消しゴム、遊戯王、妖怪コインなど、過去から現在に至るまで収集性の高い商品が人気を博し、市場として高収益を生んでいることからも推測できる。
一方、収集性の高いものを大衆化させる場合、如何にキャラクターなどのコンテンツとミックスさせるかが重要だ。日本においてはそれだけコンテンツが重視されている。それが実現できなければ、市場としては非常にマイナーにとどまるだろう。

※妖怪ウォッチ人気の理由の記事は、ヒットの原理を探る上で非常に示唆に富んでいる。
http://news.mynavi.jp/articles/2014/03/30/youkaiwatch/

2. 斬新なルールの下、臨場感のある駆け引きを楽しめる

私にとってボードゲームの価値はここが大半を占める。新しいルールにワクワクすると同時に、プレイ中の臨場感、駆け引きは何事にも代えがたい体験だ。
臨場感ある駆け引きということだけで見れば、たとえばFPSなどのWar Gameは近いものがある。しかしそこには運の要素が少なく、駆け引きのバランスは各人のスキルに左右される(瞬発力、精密な動きができるかetc)。また基本的なルールは「銃や剣を使ってどう相手を倒すか」という単純なものであり、ゲームによって操作感や映像の違いはあれども、ルールそのものでワクワクするということはない。

では、なぜボードゲームの駆け引きは「楽しい」のか。
私たちは日常生活においてもあらゆる駆け引きを行っている。上司の機嫌が良い時にハンコをもらいにいくのも駆け引きであるし、嫁にお小遣いをあげてもらうためにちょっとしたプレゼントを送って気を良くしておくのも駆け引きだ。これらは自らの実利益に絡むため、大体の場合必死なのだ。失敗すれば自分にとって損失がある分、気楽な駆け引きとはいかない。駆け引きは常に一定以上のプレッシャーがかかった環境で行われているだろう。

一方で、ボードゲームにおける駆け引きはゲームルール上で行われる、ある意味仮想世界での出来事である。そのため、リスクをとりやすく、プレッシャーが少ない。下手な手を打っても運が絡む領域であるため、事態が好転する場合すらある。逆にどんなに最良の計算しつくされた手を打っても、それが他者の意外な一手や運要素の介在でうまくいかないことがある。そしてそういう時こそ場が盛り上がり、笑いが生まれる。
この現実におけるリスクフリーな環境での、駆け引きによる先の読めない展開が、実はボードゲームの面白さの根本にあると思う。
そしてそれらの読めない展開は、しかしながら私たちが考えて打った確かな一手によって起こされている。盤上における自らの影響度の強さを感じられることは、自分の存在を確かめられることにもつながる。これもボードゲームの世界にぐっと引きこまれる大きな要素だ。

3. 人に貢献する

ボードゲーマーの多くはエンターティナーであると私は確信している。
インスト時の生き生きとした表情、周囲を巻き込んで「一緒に楽しもうよ」というプレイスタンス。ゲーム会においても自分が持ってきたゲームが人にプレイされると嬉しいし、なにより周囲を楽しませたいという人が多い。
ボードゲームプレイヤーが増えるのは、プレイヤーのこの気質が大きく影響していると思う。彼らが周囲にゲームを勧めるのは、当然プレイ仲間を増やしたいこともあるが、「楽しんでもらえることそのものが嬉しい」ということも大きいだろう。そうでなければゲーム会がこんなにたくさん開かれることもないはずだ。

心理学者であるアドルフ・アドラーは、自分に対して自信を持つ唯一の方法は「他者貢献」をすることだと言っている。周りを巻き込み、笑顔にできるボードゲームは、簡単に他者貢献できる有用なツールとして、大きな価値があると感じている。

上記からボードゲームのポジショニングマップをざっと書いてみると、おそらくこんな認識の仕方で良いだろう(多少強引かもしれない)。

ポジショニングBG.jpg

【具体的な役割】
ではこれらの価値を誰に届けて、どういう風に使ってもらえればいいのだろう。

全く話は変わるが、大阪から東京に来て、通勤中によく思う事がある。
「日本のお父さんは疲れ切っている!」と。多くの人が死んだような顔をして(私も含め)、楽しみがあまりないのかな、と思ってしまう。会社では上司からのプレッシャー、下からの突き上げ、面倒くさい人間関係、部下はすぐ辞める。一方で家庭では、嫁から手伝えと怒られ、子供には遊んでくれと言われ、ろくに休息もとれない。なんとなくそんな映像が容易に浮かんだものだ。
逆に言えば、皆がもう少し生き生きと通勤して、※良い労働生産性を発揮すれば、日本経済そのものにとってきっと良い効果をもたらすだろうとも思った。
実はここにボードゲームの役割があるのではないかと、そんな仮説を思いついたのだ。

※日本は世界の先進国の中でも、非常に労働生産性が低いことで知られている。特にオフィスワーカーのそれは顕著である。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0700Q_X00C14A1000000/

ただし、お父さん一人で巷のボードゲーム会に参加して楽しむ、という趣味としてではない(それはそれでいいが、別にそれはボードゲームである必要がない)。
趣味の問題点は、家族の了承がいるという点だ。子供がいる場合、休日にゴルフばかり行っていると「子供の面倒もみずに…」と確実に嫌味を言われるだろう。

かといって、子供と「遊んであげる」という上からのアプローチでは、自分に労力がかかるし、親自身は別にストレス発散にならない。例えば、人生ゲームは大人からすれば原理が分かっているため、ただの運、子供だましだと冷めた目線で見がちだ。これは「遊んであげる」というスタンスに近いだろうし、本気で人生ゲームを楽しんでいる大人はなかなかいない(友人同士のパーティーゲームとして楽しむならありだが)。

「子供が楽しめる!」×「親だって楽しみたい!」
この二律背反を上手く両立しうるのが、私の考えるボードゲームの役割だ。
ポイントは「子どもと同じ目線で楽しむ」ツールである。
ドイツでは家庭でボードゲームがプレイされているが、その「半数以上は子供相手に手を抜かない」らしい。ドイツゲームは特に運×思考×駆け引きのバランスが良いため、お互いに本気でやっても勝率が偏らず、面白さを感じられるからだろう。

子どもと同じ目線で楽しむ。もしくは、子供が大人と対等に戦える。大人にとっては、「遊んであげている」ではなく、「一緒に遊ぼう」である。そして子供にとっては「お父さん、お母さんに真剣勝負で勝てる!」という自信にもつながるし、少し自分が大きくなった気もするだろう。また、ここで養われる考える力、場を見る力は日常生活においてもプラスに働くに違いない。

今、子供はゲームやスマホを与えられて一人で遊んでいる時間が圧倒的に増えている。もちろんそれは手間がかからないし、親にとっても子供にとってもWin-Winなのだが、長い目で見た時、本当にそうだろうかと疑問に思うことがある
私は小さい頃に親が自作で作ってくれた双六ゲームを今でも覚えているし、それが原体験となって、人を楽しませるということは楽しい!という価値観につながっている気。
両親共働きが当たり前になって、親子のコミュニケーションがますます減っている現代社会において、ボードゲームが果たす「親子が一緒に本気で遊ぶ」という役割は案外大きいのかもしれない。

※もちろん、これ以外の市場可能性はあり得るが、最もボードゲームが活躍できる場所はどこだろうか、という観点から定義をした限りである。

【日本でキラータイトルになり得る条件】
ボードゲームの役割を上記と定義した場合、100万部売れるキラータイトルは、このような条件を備えていなければならないだろう。

・プレイ人数2〜5人(両親+子供3人までのマジョリティを想定)
・プレイ時間15〜30分(軽いゲーム感、毎日やりたくなる)
・インストが簡単(感覚的にプレイ可能。ルールは7つ以下に抑える。ぴっぐてん程度)
・親しみやすいデザイン(キャラクター。萌え絵、洋画系ではない)
・思考×運×駆け引きのバランスが良い(ドイツゲーム寄りのゲームデザイン)
・リプレイ性が高い(先が読みにくい、ランダム性があるetc)
・大人も子供も楽しい!(面白さが分かりやすいが、考えると奥深さが見える)
・日本人に親しみやすいテーマ(ゲームシステムとテーマの繋がりがイメージしやすい)

【ポイントの整理】
・ボードゲームの提供できる価値は大別して3つある。「所有欲を満たす」「斬新なルールの下、臨場感のある駆け引きを楽しむ」「他者に貢献する」である。

・子供たちは、実際に見て触れてやってみるという原体験を通して本当の意味で成長する。

・大人たちが、もっと生き生きと仕事に励めれば、日本はもっと労働生産性が上がるだろう。

・ボードゲームの役割は「子供が楽しめる!」×「親だって楽しみたい!」の実現による、親子間コミュニケーションの橋渡しである。
posted by らりお at 17:05| Comment(0) | 市場分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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